試写会の受付嬢のピンチヒッターをした
来場するお客にチラシを配付する
400人くらい列をなして押し寄せるので
私は
『いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、ごゆっくりどうぞー』
機会人形のように配りまくる
上映終了後
『ありがとうございました、ありがとうございました、お気をつけてお帰り下さいませー』
ぺこぺこぺこ
見終わって楽しそうな客人をひたすら見送る
あ、あの変な髪型の人
あ、さっき喧嘩してたっぽいカップル
あ、高校生とお母さん
あれ?こんな人、入ってたっけ?
あれれ?こんな男性来てたっけ?
あれ?あれ?あれれ?
客入れのとき
一人一人迎え入れてたはずなのに
見覚えのない人がチラホラ…
結局、見覚えのない人の方が大多数。
人間て、一度に記憶できる顔の数に限界があるのかね?
覚えてる客の顔の方が少ないなんて!
もし凶悪犯がアリバイ作りにこの会場に紛れ込んで来てたとして
後日、警察が私のとこにやって来るんだ
その凶悪犯の写真を手にだ
刑事『この顔に見覚えはありませんか?』
私『…ありません』
刑事補『ほら、先輩、ホシは映画なんて観ちゃいないんすよ』
刑事『いや、俺のカンに間違いはねぇ!』
刑事補『…おやっさ~ん、もうあきらめ悪いっす』
刑事『お嬢さん、もう一度この写真をよ~くみて下さい、
この顔、本当に見覚えはないんですかい?』
私『何度聞かれても知らないものは知りません!
もういい加減にして下さい!
仕事中なんです!』
刑事補『ほらね、もう帰りましょう』
刑事はそれでも私に詰め寄る
刑事『ふざけるなっ!人の命がかかってるんだぞっ!』
泣き出す私。
あ~ぁ、捜査に協力したいにも覚えてないんじゃね。
今夜は打ちのめされたわけなのだ
ピンチヒッター受付嬢はさ
なんてったって
『目撃者情報無し』
手ぶらで刑事を帰らせちまうんだもんな
だめだな、受付嬢失格だ。